東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市で、1台のマイクロバスが地域の足として活躍している。名古屋市の男性が10年近く届けた寄付で購入したものだ。あの震災から11日で12年。被災地で聞いた「忘れないで」の声を胸に、男性は復興に向かう街と人を見つめてきた。
「これで補聴器の電池を送ってやってくれ」
2011年3月11日の震災発生から数日後、名古屋市瑞穂区で補聴器や介護用品などの販売会社「アンプリライブ」を営む今井浩詞(ひろし)さん(63)は、難聴の高齢の男性客から四つ折りのぐしゃぐしゃの5千円札を差し出された。
補聴器の小さな電池の寿命は通常10日間ほど。電池が切れ、避難所で困っている人を助けてあげてほしい――。手渡された5千円札にそんな思いを感じた。インターホンが鳴ると光で知らせる装置を持ち込んできた女性客もいた。
被災地を案じる客の姿に「何かできないか」と考え、補聴器の電池1粒を販売するごとに10円、介護用の紙おむつ1袋は30~50円を、それぞれ収益から寄付することを決めた。「この地域の人たちが陸前高田を応援している、という思いを届けたかった」と振り返る。
12年から陸前高田市社会福祉協議会に、100万円ほどの寄付を毎年送り、陸前高田に足も運んだ。1千万円に達した寄付金で、20年にマイクロバスが購入された。
「本当は数年で寄付をやめようと思っていた」と今井さん。だが、震災から3年ほど経た時、陸前高田でこんな言葉をかけられた。
「忘れないでね」「また来て…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル